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サキュバス対オーガ

「……以上がリザについての報告になります。乳頭より噴出した液体については現状、飢餓フェーズ4のフェロモン、すなわち死前放臭相当の催淫効果を確認しております。飽食にも関わらず強い催淫効果を持つのは不可解でして、 他にも効果効能があるものとみて解析中です」

研究員は淡々とした口調で報告を続けた。本部長は無言で頷きながら、真剣な表情で聞き入っている。

「それから投入した餌についても報告があります」

「ああ、例の餌だな」

「はい、直接ご確認をいただければと」

研究員はそう言うと、「餌夫飼育室」と書かれたドアへ足を進めた。訝しんだ表情で本部長の男もそれに続く。飼育室には独房が並んでおり、それぞれ男性が拘束台に囚われている。いずれもほとんど皮と骨のような見た目をしていて、生気がない。

研究員が足を止めたのは一番奥の独房だった。その独房の備え付けの拘束台には誰も拘束されていなかったが、拘束台にはとても収まらそうな巨体が、肌がほとんど見えないほど鎖で何重にも縛り付けられた状態で床に転がっていた。

「なんだ、これは」

身長2メートルほどの筋骨隆々とした緑褐色の身体をしているそれは、大きな寝息を立てて眠っている。

「前回の投入中、突然急速な筋肥大と体色変化を起こしたのです。しかしリザの過剰吸精によって萎縮し、瀕死に陥ったため、やむを得ずオーク因子を再投与する処置をいたしました。処置により生命維持に成功。その後は回復とともに身体拡張、体色変化が進み、現在の状態で安定しています。崩壊の徴候は依然としてありません。いくらかの知能低下や感情の制御の問題を確認しています。しかし、脳が萎縮した様子はなく、 性欲のあまり判断力等が低下したことによると思われます。言語での意思疎通も可能です。精エネルギーの保有量はますます増しており、回復速度次第ですが、本個体のみで飼育中のサキュバスの全飼料をまかなうことも可能かと思われます。精液の成分については現在解析中ですが、問題が検出されなければすぐにでも飼料としての投入を考えておりまして、そのご許可をいただきたく……」

研究員の説明を聞きながら、本部長は目の前の巨体をじっと見つめていた。彼の表情には驚きと興味が入り混じっていた。

「変化したのは見た目とエネルギーだけか?」

「え、いえ、 身体拡張に応じて身体能力も向上しているかと……。 しかし、このように、 鎖で拘束が可能な状態です」

「拘束しておくのにこれほどの鎖を必要とする、ということだろう」

「そ、それは……」

研究員は言葉に詰まり、視線を逸らした。本部長の厳しい視線が彼を追い詰める。

「飼育個体を危険な目に遭わせたな。重大な規則違反だ」

「そんな……」

「どうして中止しなかった? そもそも急速な筋肥大ではなく爆散直前の膨張と瞬間的に判断し直ちに殺処分するのが妥当なはずだ。

L11の評価額を知っているだろう。 お前の人体全部売っても足しにもならないのをわかっているのか」

「ひっ、誠にもうしわけございませんっ。し、しかし、これまでの経過も踏まえ、過去の崩壊とは明確な違いがあるのは明らかでしてっ! 必要であれば根拠を明確にして提出いたしますのでどうか猶予をいただければとっ!」

「適切な判断を評価しよう」

「え?」

研究員は混乱した様子で、本部長の言葉の意味を理解しようとしている。一方、本部長の表情には喜びの色が浮かんでいた。

「くくく、まさかこんなシノギから実現するとはな」

「すみません、 話が見えないのですが……」

「男性個体の人為的な鬼化に成功したんだぞ。新種の超自然個体だ。この意味がわからぬわけではあるまい」

「まだ鬼化の成功と言うには尚早かと思われますが……」

「これからお前には本部で本件の再現実験に勤しんでもらうことになるだろう。実験に成功すれば規則違反についてもお咎めなしとしよう」

「私が本部に? ではここのサキュバスたちは……」

「わかってないようだな。昇格だよ。もうサキュバスの世話なんてしなくていい。おめでとう。ハハハハッ。」

本部長は興奮気味に笑いながら、研究員に指示を出した。その声には抑えきれない喜びが滲んでいる。

「明日の昼には迎えに来させる。 オーガ・ゼロを運搬可能な状態にして待っていろ」

「しかし、 それではサキュバ……」

「くくく、ハハハ、これはすごい、すごいぞっ、は!」

本部長の男は一方的に会話を終え、一人でブツブツつぶやきながら 足早に飼育室を去っていった。

――あああどうしよう、こんなはずじゃ……! 咎められるとは思っていたが、まさか本部行きになるとは。これから先、私は緑の怪物の身体をいじくり回す毎日を過ごさなければならないのか?

――サキュバスたちはどうなる? オーガにサキュバスを犯させれば、今までにない膨張が見られるかもしれないというのに。

研究員はふと立ち止まり、深く息をついた。胸の奥でじわじわと怒りに変わっていくのを感じた。

「こんなシノギ……だと……?」

彼の拳は自然と握りしめられ、震えていた。自分の芸術作品は他の誰にも再現できないものだ。それを奪われるわけにはいかない。

「本部になんて行くものか……」

研究員は決意を固めた。後のことは考えず、ただオーガにサキュバスを犯させ、その膨張を見届けることだけが彼の頭にあった。

彼は飼育室を出て、廊下を歩きながら思考を巡らせた。サキュバスがオーガの精液を嫌う。むやみに犯させてもきっと膨張はしない。

「もしこの仮説が正しければ……いや……」

残された時間はあまりにも少ない。チャンスは一度しかない。追い詰められた研究員の思考は、狂気的に冴えわたっていた――。

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