「お兄さん、サキュバスいかがっすか?」
仕事帰り、駅前の歓楽街で聞き慣れないフレーズで客引きの男に声を掛けられた。
「マジで最高っすよ、サキュバスの口マンコ」
完全に無視したのにも関わらず、客引きはしつこく話しかけてくる。
「お兄さん、絶対強いでしょ? それにデカそう。サキュバスも喜ぶだろうな」
随分と失礼なことを言ってくるが、図星だった。自慢ではないが、これまで俺の精力とデカさに驚かなかった女はいない。
「やっぱり、ね? 溜まってるでしょ? どうすかサキュバス」
よくわからない誘い文句がまぐれで当たったのに驚いて顔に出てしまったようで、歩みを早めたにもかかわらず客引きは食い下がる。
まあ、正直仕事続きで溜まりに溜まってるし、ひさしぶりにいくか。
足を止めて客引きと交渉する。1時間1万円で時間内無制限。この値段だとバケモノ相手でも文句は言えないが、問題ない。交渉が成立し、店舗へと案内された。
ビルに入ってすぐのきらびやかな箱ヘルのドアをスルーして、エレベーターに乗る。地下2階で降りて客引きが向かったのは、さっきのドアとは対照的な重々しいドアだった。値段表などの看板のたぐいはもちろん、店名の表記もない。
ここまでで結構不安になっていたが、店内は一応、ヘルスのそれだった。受付があって、コースやオプションの表記がある。ただ、嬢の写真は飾られていない。客引きは受付と小声でなにか話したあと、地上へと戻っていった。
嬢の指定はできず、とくに何か記入したりすることはなく、支払いを済ませるとすぐにボーイに案内された。
ボーイからの注意事項を聞いて、これが普通のファッションヘルスでないことが確信にかわった。要約すると、こうだ。
「聖具や呪具の持ち込みがないようにするため、入室前に全裸になる」
「拘束具には極力触れてはいけない。解除や破壊を試みたと判断した場合は即刻ガードが入室してプレイを中断する」
「ここまでのルールを守ればあとは何をしてもいい」
てっきりサキュバスときいて、痴女プレイで女性がリードするものだと思っていたが、どうやら、ガチのサキュバスの方のロールプレイらしい。
入室前に全裸になる(ボーイの目の前で)とか、即刻ガードが入出する(つまり監視されている)とか、正直ついていけないレベルだが、頭飛び抜けて異常なのは「何をしてもいい」というルールだ。
ボーイに聞いてみたところ、セックスもアナルセックスもイラマも首絞めも、その他あらゆる暴力行為もOKと言い張った。さすがに警察にお世話になることはしないが(そのためのガードの監視なのかもしれない)、普段嬢に頼めない、やってみたいことは色々ある。
これを1時間1万で? さすがに嬢が気の毒だ。そんなふうに考えて気持ちも少し萎えていたが、部屋に入った途端、その気持ちは一変する。
部屋は嗅いだことのない強烈な匂いに満たされていた。あまりの匂いにその場にうずくまってもだえる。わけがわからないが、どうやら自分は射精をしたらしく、チンコが不規則にうずいている。
少しずつ匂いになれて、これがようやく「とてつもなくいい匂い」であることがわかった。いい匂いといっても、リラックスできるような清々しいものではなくて、脳に直接効く中毒性のある匂いだ。鼻で吸うたびにチンコが暴れまわって射精感がこみ上げるので、必死で息を殺して口呼吸をする。
部屋を見渡すと、無骨な拘束台に嬢が囚われているのがわかった。
これがサキュバスっていうのはちょっと無理があるんじゃないだろうか。サキュバスと言ったら肉々しい豊満なボディに、角と羽だ。その一つも持ち合わせていないこのやせ細った少女をサキュバスと呼ぶこの違法風俗店のセンスがわからない。こんな子を乱暴に犯せと?
かぎたくて仕方がないこの匂いも、明らかにやばい薬物だろう。これで肺が満たされる前に、逃げたほうがいい。すぐにドアを空けてまずはまともな空気を吸おう。いや、拘束具を破壊すれば連れ出してもらえるんじゃないか? そうだ、それがいい。もっと近くでこの匂いをかぎたいし……。
立ち上がって嬢に歩み寄りながらそう考える。痛ましく弱り果てたこの少女の口を犯そうとチンコは凶悪に勃起していて……。
だめだ、今すぐ引き返そう。まだ間に合う。そんな抵抗も虚しく――。
目隠しをしていてもわかるその美しい顔が淫らにとろけるのを見て、俺は考えるのをやめてしまった。
